カエ「私は、女神ウェヌスの子孫にしてユリウス氏族カエサル家が当主、ガイウス・ユリウス・カエサルだ。伯父上、父上、私は私という人間の能力を最大限に活かしているのでしょうか。同じ理想を目指す仲間の旗揚げに応えられなかった。質素な家でも、あの小さな平穏を手放せなかったのです」
順に登場。
ノバ「ならその小さな幸せを守ればいい」
フェ「心地よい暮らしに身を置けばいい」
ジュ「あの穏やかな庭に戻ればいい」
カエ「ああ、それはどれほど幸福なことだろう」
ノバ「気立てのいい奥さんだっている」
フェ「家族も増えるだろう」
ジュ「あの、美しい日々に戻ればいい」
カエ「美しい、日々……」
ジェ「あなた、見て。アレクサンドロス大王の像よ」(指をさす)
カエ「コルネリア。私は、アレクサンドロスの年齢に達したにも拘わらず何も成しえていない」
フェ「戻ればいい」
カエ「だが、あの日々は既に追憶の日々だ。もはや私の体は私一人のものではないのである」
ノバ「誇りを忘れるな!」
ジュ「誇りを持ちなさい」
カエ「私は決して忘れない。私は決して失わない。私の名はガイウス・ユリウス・カエサル。さようなら、母上、コルネリア。また会う日まで、どうか私を守りたまえ。父上、私は必ずやローマを変えて見せます」
カエサルはける。
ノバ、ジェニー、ジュン登場
ノバ「カトの最後の捨て台詞を聞いたか?『この女たらし!』だとよ!」
ジュ「皆大爆笑だったわ」
ジェ「とにかく、彼の疑いは晴れた訳だから、今後の方針だけど……」
フェブリオ登場
フェ「ジェニー姉さん! 」
ジュ「フェブリオ兄様が大きな声を出してるわ!」
ノバ「どうしたんだ、兄さん」
フェ「また戦争になるぞ」
ジェ「この間ガリア戦争が終わったばかりなのに……」
ジュ「今度の原因は何なの、兄様?」
フェ「クラッススが、死んだ」
ノバ「これだから、元老院ってのは嫌なんだ。何も分かっちゃいねえ!」
カエサル登場。
カエ「初めまして、グナエウス・ポンペイウス。私はガイウス・ユリウス・カエサル」
ノバ「誰だか知らねえが、随分偉そうな奴だな」
カエ「この口かな? それとも態度? 雰囲気? すまないが生まれつきなんだ」
ノバ「へー、面白いね、あんた。このポンペイウスに何の用だ?」
フェブリオ登場。
フェ「元老院は長い間このローマを維持し続けた重要な中枢機関だ」
ノバ「何なんだ、あんたは」
フェ「お初にお目にかかる。僕はマルクス・リキニウス・クラッススだ」
ノバ「スッラ派のクラッススか!? 驚いた、こんなに若いとはな」
フェ「騎士階級の僕を知っていてもらえているとは嬉しい」
ノバ「かの奴隷戦争を終わらせた英雄はさすがだな! 古い考えに固執するお偉いさん方の忠実な番犬ってわけか。ご立派だな!」
フェ「勘違いしないでほしい。確かに彼らの功績は偉大だが、君が言うようにどんなに立派な大木でも、幹だっていずれは朽ちていく」
カエ「いくら枯れ葉で覆い隠そうとも、土に還るのは必然だ。誰かが新しい若木を植えてやらねばならないと、思わないかい?」
ノバ「以前、ローマ転覆を謀ったような計画が二つ、未遂に終わったことがあったな。主犯はあんたか」
カエ「さあ」
ノバ「いいぜ、前科があろうとも、クラッススまでいるなら話は別だ。カエサル、あんたの革命に乗ってやるよ」
カエ「ありがとう、ポンペイウス。新時代がまた近づいたよ」
フェ「それじゃ、僕はパルティア遠征に行ってくるよ」
ノバ「あんたは本当に頼もしいな! そこまで見送るぜ」
カエ「朗報を期待してるよ、クラッスス」
フェ「二人とも、ありがとう。まかせてくれ」
フェブリオ、ノバはける。
ノバ登場。
ノバ「カエサル! 大変だ……カルラエの戦いで、クラッススが、戦死した」
カエ「……。そうか」
ノバ「……それだけか? あいつが死んだのに、その一言だけなのか!?」
カエ「他に何があるんだ?」
ノバ「俺はさ、ローマって嫌いなんだけどよ。あんたらのことは、結構気に入ってたんだぜ」
ノバはける。
カエ「ここまでか……」
カエサルはける。
ジェニー、ジュン、フェブリオ登場。
ジュ「ジェニー姉さま。ユリウス様が、クレオパトラと組んだポンペイウスを倒しました」
ジェ「そう……。これだけ状況に変化があっても、この分岐点は消失しないのね」
フェ「クラッススのリタイアは大きかったな」
ジュ「ユリウス様、大丈夫かしら」
ジェ「時は流れるのみ、よ。ジュン、のんびり屋のオーギュストを起こしておいて」
ジュ「分かりました、ジェニー姉さま」
ジュンはける。
ジェ「ノバは?」
フェ「最近見ていない」
ジェ「彼のところね。分岐点との接触は控えてとあれほど言ったのに」
フェ「連れ戻そうか?」
ジェ「とりあえず様子を見に行きましょう。フェブリオ、一緒に来て」
フェ「分かった」
二人はける。
カエサル登場。
カエ「よし、ファルナケスをも倒した。これで障害はほぼ取り除けた。ローマで待っている私の腹心に戦勝報告をしなければ。文面は、そうだな……来た、見た、勝った、だな」
ノバ登場。
ノバ「順調そうで何よりだ」
カエ「! 君か、侵入者かと思ったよ」
ノバ「無断で入って来た俺は侵入者じゃねえのかよ?」
ヵエ「君は、君達は特別さ。そもそも君達の行動は、私にどうこうできる物でもないだろう」
ノバ「俺達の正体って奴が気になるんじゃねえのか?」
カエ「気にはなるさ。だがそれ以上に私は君たちの存在に感謝しているからね」
ノバ「大王の像を見たのか」
カエ「ああ。だから決心できた」
ノバ「それまでの幸せを捨てることになったのに、か?」
カエ「確かに、あの居心地の良い日々を過去にすることは私にとって失ったということなのだろう。だが、ガイウス・ユリウス・カエサルは、ローマのためにあるのだ」
ノバ「お前はお前だけのものだろう?」
カエ「私が築いてきた金も、地位も、名誉も、犠牲も、私の誇りには劣る」
ノバ「誇り?」
カエ「そうだ。私の、女神ウェヌスの子孫にしてユリウス氏族カエサル家が当主、ガイウス・ユリウス・カエサルとしての誇りだ」
ノバ「すっかり、つまらねえ人間になっちまったな」
カエ「全く、失礼な男だ。私とここまでくだけて喋る人間は初めてだ。……。でも、やはり面白い奴だな、君は」
ノバ「ちっとは周りの事が見えるようになったか?」
カエ「君にはどう見える?」
ノバ「何も分かってねえガキんちょじゃあ、なくなったってくらいかな」
カエ「それは上々だ。私はなんだってやってみせるよ、ノバ」
ノバ「ああ、一つ教えてやるよ。ノバってのは――」
ジェニー、フェブリオ登場。
ジェ「ノバ!」
ノバ「ジェニー!?」
ジェ「やめなさい。その人間に何を言う気?」
ノバ「ジェニー、俺はこいつが気にいっちまったよ。俺を面白いって言うこいつが」
ジェ「分岐点に感情移入をしてはいけないわ。そういう決まりよ」
ノバ「分岐点、決まり、運命! ジェニーはほんっとにちっとも面白くねえな!」
ジェ「いい加減に――」
フェ「いい加減にしろよ、ノーベンバー! ルールは守れ。それがルールだ」
ジェ「二人とも、やめて」
カエ「手を、離してやってくれないか?」
ノバ「お前、何言ってんだよ」
カエ「さっきからの君達の発言にはさっぱりだが、私が原因なのだということは分かる。私のできる範囲で君らの言い分を聞こう。だからここは収めてくれないか?」
ノバ「お前には少しも関係ねえだろ。何やってんだ」
フェ「お前に何ができる」
カエ「何でも」
フェ「お前は神か何かか? でなければただの馬鹿だな」
ノバ「そりゃ、馬鹿だろ」
カエ「どちらも違うな」
ジェ「カエサル様。ガイウス・ユリウス・カエサルとは一体何かしら?」
カエ「カエサル家の誇りを持つ、ローマのために生きる男だ」
フェ「ならばローマのためにその命を天に返してはどうだ」
ノバ「フェブリオ!」
カエ「それはできない」
ジェ「あなたは何でもできるのでしょう?」
カエ「ローマにこの身を捧げた私はローマのために何でもできるだろう。だがこの身はローマの物である。よって私の生死はローマの物であり、私の意思は関与しない」
ジェ「それは本当にガイウス・ユリウス・カエサルなのかしら?」
カエ「ローマの為にあるガイウス・ユリウス・カエサルはローマそのものである。貴女にローマが殺せるか?」
ジェ「……いいえ」
カエ「私は決して死なない。ゆえに何だってできる」
フェ「屁理屈だな」
カエ「だが理屈だな。ありがとう」
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