奥から。
ノバ「ジュンなんか嫌いだああああ!!」
ノバ登場。
ノバ「てやんでい! ちくしょう、コノヤロばかやろこのやろー!俺は悪くないぞ! ジュンの馬鹿やろうー!!! ピーピー鳴いてる虫も空がすっげー青いのも、魚がすいすい泳いでるのもむかつくんだよぉ!」
カエサル登場。
カエ「世界、それ自体が神であり、世界が自身の霊魂を流出する。それは同じ世界を導く原理であり、物の一般的本性や、……本性や…… おい、君! 何やってるんだ」
ノバ「は? 君って俺のことかぁ? つかなんで……てか見りゃ分かるだろ、むかついてるんだよ」
カエ「君が一体何に怒っているのか私には分からないが、少なくともその川に住む生き物たちが君の被害を受けるのは不当だと分かるぞ」
ノバ「不当だか不毛だか知らねえが、つーかいつまで掴んでるんだよ」
カエ「不毛? なるほど、確かにこの場合、その言葉の方がより適切に相手の勢いを沈められたかもしれないな」
ノバ「いやそーじゃねえだろ! 俺にはお前の方が意味不明でビックリ仰天だっつの。や、つーかそもそもお前なんなのよ?」
カエ「私は、女神ウェヌスの子孫にしてユリウス氏族カエサル家が嫡男、ガイウス・ユリウス・カエサルである! 口が悪くても君にだって名乗る名前はあるだろう?」
ノバ「っ! へえ? この俺に喧嘩売ってんのか、生意気にな小僧だな。俺は、そうだな、ま、ノバかな?」
カエ「どうして疑問形なんだ。まさか君には名前がないのか?」
ノバ「べっつに~。それよかさ、貴族のぼっちゃんがこんな所で何の用だよ」
カエ「私の名はガイウス・ユリウス・カエサルだ。少し、静かな場所で本が読みたかったのだ」
ノバ「本? こんなご時世に勉強してんのかよ」
カエ「わ、悪いか!?」
ノバ「剣振ってた方が長生きできるんじゃねーの?」
カエ「ふん。学の浅い人間が言いそうなことだ」
ノバ「あぁ?」
カエ「や、やめろ、苦し……ぶは……これからは、剣の腕だけがあっても生き残れはしないし、時代は変わらない」
ノバ「誰かの受け売りか?」
カエ「わ、悪いか……」
ノバ「べっつに~」
カエ「尊敬する父上のように賢く、戦争を終結に導いた伯父上のように勇敢になるためにも、もっと知識が必要なんだ」
ノバ「戦争って、同盟市戦争か、てことはお前の伯父さんって」
カエ「私の名はガイウス・ユリウス・カエサルだ。勿論、ルキウス伯父さんその人である」
ノバ「てーことは、こりゃちっとやべーな。あー、坊っちゃんよ、俺はもう帰るよ」
カエ「えっ……あ、いや、そうか」
ノバ「?…… じゃーな、坊主――」
ノバはたかれる。
ノバ「ってええ! 急に何すんだこんちくしょー! しかもこの俺に! しかも後ろから! しかも急に!」
ジェ「何すんだはこっちの台詞よ!」
ノバ「げっ、ジェニー」
ジェ「げ、じゃないわよ! 用件は分かってるわね?」
ノバ「用件? えーと……なんだっけ?」
ジェ「ジュンに謝るのよ!」
ノバ「ああ! ははっ、ごめんよ姉ちゃん、すっかり忘れてたぜ!」
ジェ「まあ! このうっかり屋さんの――愚弟が!」
ノバ「痛い痛い痛い! 姉ちゃんほんとにやばいって!」
ジェ「ジュンー、こっちおいで」
ジュン登場。
ノバ「……悪かったよジュン。確かに、俺もちっと大人げなかった」
ジュ「……んーん。ジュンも、泣いてばっかでごめんね。ジュンね、ほんとはノバ君が大好きだよ!」
ジェ「はい、この件はこれで終わり! さあ、帰るよ」
ノバ「ちぇっ、一体誰がジェニーにちくったんだよ」
フェブリオ登場。
フェ「僕だよ、ノバ」
ノバ「げげっ。に、兄さんだったのかー、はっはっはっはっは……」
ジェ「ほらほら、今日は鳥肉のシチューだよ」
カエ「あ、あのぉ……」
ノバ「お、まじで! これだから姉ちゃん大好きだぜ!」
ジュ「ねーねー、ジェニー姉様、フェブリオ兄様、彼はノバ君のお友達?」
ジェ「……。何を言ってるの、ジュン?」
フェ「普通の人間に僕らは……」
カエ「僕らは?」
ノバ「っ、すんませんっしたああああああ!!」
ジェ「な、な、なんてことなの……」
フェ「姉さん、しっかり」
ノバ「いや、あの、なんかね、言い訳する気はねーんだぜ? だたまぁ、なんつーか成り行きっての?ノリ?」
ジュ「姉さま、ノリってどういう意味だったかしら?」
フェ「ジュン、少し、静かに」
ノバ「俺だってビックリしたんだぜ? 世界がどうとか言ってる貴族のおぼっちゃんに、まさかこんな辺ぴなところでうっかりみられちまうとは」
ジェ「うっかり……?」
ノバ「あ、いや、その」
カエ「おい、君は何度言ったら分かるんだ。品のあるおぼっちゃんなどと言うな! 私の名はガイウス・ユリウス・カエサルだ」
ノバ「言ってねーよ!」
ジュ「確かに。ノバ君てば、運がイイにしても貴族の男の子を捕まえるなんて」
フェ「身代金の要求でも、したのか?」
ジェ「ああ、本当になんてことかしら」
ノバ「皆で俺を犯罪者にするんじゃねえええ!」
カエ「そもそも、君たちは一体何なんだ。一緒に帰ろうとしていたようだが、まさかその口の悪い彼の身内か?」
ジェ「失礼いたしました。私はそこの口の悪い男の姉で……ジェニーと申します。愚弟は貴族という身分を理解しておりませんで。数々の無礼、お許しください」
カエ「あ、いや……」
ノバ「気にしてねーよな!」
カエ「君には兄弟がいたのか」
ノバ「まぁ、ね。あっちの無表情なのがフェブリオ、俺の兄さんだ」
ジュ「ちょっとちょっと、ノバ君!(ヒソヒソ)」
ノバ「ん? あぁ、んでこっちが」
ジュ「初めまして、ユリウス様。弟の非礼、大変失礼いたしました。わたしのことはジュンとお呼びください」
ノバ「いい子ぶりっ子猫かぶり」
ジュ「……ノバ、なあに?」
カエ「あ、こちらこそ……私は、女神ウェヌスの子孫にしてユリウス氏族カエサル家が嫡男、ガイウス・ユリウス・カエサルだ。女性がいるなら仕方ない。お気をつけて」
ジェ「御配慮感謝いたします」
ジュ「ありがとうございます! ユリウス様!」
はけていく。
ノバ「じゃーな、カエサル家のぼっちゃん。お前さ、もっと周りを見ろよな」
カエ「! 何だと!?」
ノバ「そしたらさ、お前は何だってできるぜ。多分な!」
カエ「! 意味不明だぞ。というか、私の名はガイウス・ユリウス・カエサルだ!」
ノバはける。
カエ「全く、失礼な男だ。私とあそこまでくだけて喋る人間は、初めてだ。……。でも……」
カエサルはける。
順に登場。
ノバ「ひゃっほーう! 久々に肉の入ったシチューだぜ!」
ジュ「ジュン、姉さまのシチュー大好き!」
フェ「……僕も」
ジェ「みんな! シチューの前に、ちょーっとお話があるわ」
ノバ「……お姉さま、目が笑っておりませぬ」
皆座る。
ジェ「ノバ、彼は一体何なの?」
ノバ「貴族のボンボン」
フェ「確かにな」
ジェ「ちゃかさなーい」
ノバ「痛い痛い」
ジュ「きれいな目をしていたわ」
ノバ「大好きなパパと伯父さん目指してクリュシッポス唱えるガキだ」
ジェ「普通の人間には見えない私たちを、彼はちゃんと見ていたわ」
ジュ「ジュンのこともしっかりあのきれいな目で見てくれたよ」
フェ「僕も」
ノバ「まぁ、確かに……実を言うならさ、あいつちょっと他とは違う臭いがした、かな」
ジェ「暦を変えられる者が現れたということ?」
ノバ「さあな」
フェ「……伯父さん?」
ジュ「あー、そだねぇ。今どき親に憧れるならまだしも伯父さんて」
ノバ「あ」
ジェ「何か思い当るの?」
ノバ「ジェニー、嫌な事思い出しちゃった」
ジェ「だから、何?」
ノバ「あのがきんちょの伯父さんってのがさ、ルキウスって」
フェ「ルキウス?」
ジュ「あのルキウス・コルネリウス・スッラ?」
ジェ「なんだか嫌な予感しかしないわ」
フェ「閥族派のルキウスと民衆派のガイウスは揉めている」
ジュ「ジュン思い出したんだけどー、そのガイウス・マリウスの奥さんって」
4人「……ユリア!」
ノバ「あの坊主はあんな坊主の内から渦にのまれてるってことか」
ジュ「じゃあ、ユリウス様も民衆派かー。伯父さんが大好きなんでしょ? 気の毒ねぇ」
フェ「因果応報とも、言う」
ノバ「あんなガキに何を背負わせようってんだ!」
ジェ「とにかく! お膳立てはできちゃってるってことよ」
ノバ「何も、できねーのか?」
ジュ「できないよ、ジュンたちには」
フェ「僕たちは何もしない」
ノバ「それはいつものいい訳じゃねーのか? 逃げじゃねーか?」
フェ「ならば何ができる」
ジュ「わたしたちにはできない」
ジェ「知っていたって、私たちには何もできやしない」
ノバ「俺たちは、何もできない……」
カエサル登場。
カエ「お待ちください、伯父上! どうか冷静になって下さい、マリウス伯父さん。あの人を、どうか殺さないでほしい!」
ジェ「うるさい! こどもは黙っていろ。例えお前の実の伯父であろうと、私は奴を絶対に許さない。流浪の恥辱は必ず晴らす! 」
ジェニーはける。
カエ「そんな、マリウス伯父さん……!」
カエ「伯父上! 伯父上はいらっしゃるか、ルキウス伯父上! ああ、そんな所に。さぁ、早くお逃げ下さい。追っ手がそこまで迫っております。伯父上!」
フェ「はははは! なんという失態! あの老いぼれめ、命だけは助けてやったというのに」
カエ「伯父上、これはきっと何かの間違いです。ルキウス伯父上が国家の敵などと……とにかく今は身を隠して転機を待つのです。さあ、はやく裏の戸口から!」
フェ「カエサル、私の可愛い甥よ。お前は私の誇りだ。だが決して、私の二の舞にはなるな。お前はこのローマを変える男なのだから!」
カエ「伯父上、何を言ってるのですか。伯父上、ルキウス伯父さん!!」
フェ「カエサル、元老院には気をつけろ。ローマに栄光あれええ!!」
フェブリオはける。
ノバ「カエサル。愛する我が息子よ。お前は本当に強くなった。お前は人間というものをよく分かっている。お前の永久的な魅力だ、自信を持ちなさい」
カエ「嫌です父上、待ってください。私はまだ、父上に教わりたいことがたくさん!」
ノバ「お前はローマを新時代に導くだろう。カエサル、誇りを忘れるな!」
カエ「父上ええええええ!!!」
ジュン、カエサルの近くへ。
ジュ「初めまして、カエサル様」
カエ「ただいま、コッスティア。話があるんだ」
ジュ「神祇官就任おめでとうございます、カエサル様」
カエ「その、そのだな、コッスティア」
ジュ「やっぱり、身分の差は大きな壁ね。私たち、別れましょう?」
カエ「……ありがとう。君の事は本当に愛していたよ、コッスティア。元気で」
ジュ「何に対するお礼かしら。でも、私こそありがとう。カエサル様、さようなら」
ジュンはける。
カエ「ここまで来たのだ。やってやる!」
ノバ「息まいてるとこ失礼するぜ、坊っちゃん」
カエ「君は……あのときの!」
ジェ「お久しぶりです、カエサル様」
ジュ「お久しぶりね、ユリウス様! ん~やっぱりきれいな瞳ね」
カエ「こんな灰色のどこが……!」
ノバ「なーなー、お前随分有名人になったのな」
カエ「私の仇名を知らないのか? ビュティニアの女王だぞ?」
フェ「生きるために、できることをやったんだろ」
ジュ「伯父さんのことは気の毒ね」
カエ「マリウスはやるべきことをやっただけだ。スッラは政治のイロハを分かっていなかったにすぎない」
ジェ「ローマを、変えるのだとか」
カエ「ああ。父も伯父もできなかったことだからな」
ジュ「国民のためじゃないんですか?」
カエ「さあね」
ノバ「海賊に捕まったときはびっくりしたぜ」
フェ「あれは終わりだと思ったね」
ジュ「身代金が安すぎるぞ! ってね」
ノバ「磔にしてやるってのも威勢が良かったな。ほんとにやっちまうし」
フェ「姉さん、そろそろ」
ジェ「カエサル様、財務官になったらヒスパニアには必ずお行きなさい」
カエ「ヒスパニア? 一応留めて置こう。私としては、そろそろ君達の正体が気になるわけだが」
ノバ「正体ねぇ」
ジュ「ひ、み、つ~」
ジェ「あなたは分岐点」
カエ「分岐点?」
ノバ「とりあえずはさ、生き延びろよ、ガキンチョ」
はける。
カエ「ま、せいぜい選択を間違えないよう気をつけるよ」
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