○電車(夕)
  車内にはツバキのみ、端の席で読書。
SE ドア
  入って来たカリン。
カ「あ」
  ツバキはカリンを見ない。
カ「どぱぱーん……」
SE 電車
  反対の端の席に座るカリン。
  沈黙。
  服の上から栞を確かめる。
カ「誰もいないし、喋ってもいいよね」
ツ「……。」
カ「ねぇ、努力家君。ひょっとして君の名字、アライだったりする?」
  手が僅かに止まる。
ツ「……。いや」
カ「だよね! あー良かったー! うんうん。そりゃそうだよね」
  読書を続ける。
カ「君、顔のつくりが綺麗な方に入るんだね。今朝さ、学校で友達に、ねーねー、電車で一緒だった美少年とどーゆー関係? ワカナエの制服だったよね!って言われてさ。後でメール来たんだけど、なんでも今年のワカナエの生徒会長が、美少年で運動神経良くて、頭もいい、性格もいいパーフェクト君なんだって。んで、その完璧君はこっち方向から電車で登校してるんだってさ。名前がアライって言うらしいから、まさかと思ったんだけど、やっぱ違うよねー!」
  ページをめくって。
ツ「あぁ、確かに違う。だいぶ間違ってます」
カ「はい?」
ツ「確かに僕の名字はアライではありません。が、美少年だとは思いません。それに、ワカナエの生徒ではありますが、あなたとは何の関係もありません。今後も僕には関わらないでいただきたい。それから、我が校の生徒会長ですが、任期は半年なので今年の会長経験者は既に二名います。両者は校内でも評判が良いとされ、互いに仲の良い人達ですので、あなたのご友人がおっしゃる特徴はおそらく両者に該当するでしょう。ですが、世の中に完璧な人間などいないと僕は思っています。ましてや僕らはまだ中学生。義務教育も終了していません。ただ、その二名の内一人は確かに、この方面の電車を利用して通学しているようです。それと、その生徒の名字でしたら、新しいに住居の居と書いてニイと読みます。知っておいた方が良いかと」
カ「……。そ、そう、ですか。どうも……」
(OFF)「まもなくー、イヌキー、イヌキー」
ツ「お役に立ったようなら幸いです。ちなみに――」
カリンの方を見て。
ツ「――僕の名前は新居ツバキと言います」
  阿呆のような顔のカリン。
SE ドア開
  ドアの方を見て。
ツ「降りないんですか?」
カ「はっ!」
  慌てて降りていくカリン。
カ(OFF)「……どぱぱーん!」
SE ドア閉
  再び本に視線を落とすツバキ。
                                        (暗転)
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