(暗転)
SE ドア
  栞を握って入って来るカリン。
カ「どぱぱーん! 今日は余裕持って乗れたじゃーん!」
  後ろに立っているミズキ。
ミ「へー。じゃぁ、今日は助けてやんなくてもいーんだ」
カ「げ! 出たな! ぶっちおじさん」
ミ「は? てかおじさんじゃねーよ。俺はまだ27だ!」
カ「充分おじさんですよ」
ミ「てゆーか、ぶっちってなんだよ」
  変なポーズとりながら。
カ「忘れたとは言わせない! よくも私の大事なキーホルダーをぶっちしてくれたな!」
ミ「あぁ、昨日の」
カ「そういうわけで今日はおじさんの何かをぶっちしてやりますよ!」
じりじりとミズキに迫るカリン。後ずさるミズキ。
ミ「はい!? 逆恨みもいいとこだな、おい!」
 ミズキ、サクラにぶつかる。
サ「きゃっ」
ミ「おっと! す、すいません」
転んだサクラに手を貸すミズキ。
サ「あ、はい。平気です」
カ「あ、サクラさん、おはようございます!(大きな声で)」
サ「おはよう」
ミ「え、何、君、こんな美人と知り合いなの?」
サ「仲良しだよねー」
カ「はっはっはー! いいだろー! サクラさんと超仲良しなんですよー」
ミ「……。(サクラに向いて)お怪我はありませんか、サクラさん?」
サ「平気ですよーう」
カ「あ! 馴れ馴れしく名前とか呼ばないで下さいよ! セクハラで訴えますよ!」
ミ「ご迷惑ですか?」
サ「カリンちゃんのお知り合い? 別にいいですよ?」
カリンと肩を組むミズキ。
ミ「と、いうことだ。俺の知り合いのカリンちゃん?」
カ「寄らないで下さい。セクハラで訴えますよ」
ミ「セクハラの意味知ってんのか?」
  カリン、全力で嫌な顔。
ミ「……。あれ……? その肩掛け……」
カ「?」
サ「どうしたの? 二人とも」
ミ「いえいえ、何とも。サクラさん、もし足とかくじいてたらここに電話ください。俺はミズキっていいます」
メモしてサクラに渡す。
カ「このおっさん……!」
ミ「何だ、がきんちょ?」
  急に後ろから声。
ツ「公共の場ですよ。何やってるんですか」
  皆で振り向く。
サ「あ……」
カ「昨日の……」
ミ「あっちゃー……」
ツ「うるさいですよ、兄さん」
  沈黙。
カ「……。は? にいさん?」
ミ「27にもなって電車ではしゃぐんですか?」
ミ「ちげーよ」
ツ「いいかげんにしてくださいよ。そちらも、昨日もですが、少々騒がしいですよ」
カ「……。え! 私!?(大きな声で)」
サ「か、カリンちゃん、声、声」
カ「あ!」
  口を手で覆うカリン。
  サクラ、ツバキに大人な態度で。
サ「ごめんなさい。今後は十分気をつけます」
ツ「……。兄さんは? こんな所で何を?」
ミ「はあ!? そりゃ! いや、だから……」
ツ「まだ見つからないんですか……」
ミ「あいや、その、えーと……」
サ「ミズキさんは何をお探しですか?」
ミ「え! いやー、なんというか……」
カ「どーせ女でしょ。さっきみたいに!」
ツ「さっき?」
(OFF)まもなくー、ヤオキー、ヤオキー」
ミ「あ、俺もう降りねーとなー。ツバキ、じゃな!」
SE ドア
カ「あ、逃げた!(大きな声で)」
  ミズキ、咳払い、カリンを睨む。
カ「あ」
  慌てて口をおさえるカリン。
ミ「兄がご迷惑をおかけしたようで(一礼)」
サ「……あ……」
  立ち去ろうとするツバキを呼び止めるカリン。
カ「あの人は何を探してるの?」
  溜息をついてふり返るツバキ。
ツ「仕事ですよ」
カ「は?」
サ「お仕、事……?」
ツ「兄が降りた駅、ヤオキなんですが、周辺には紹介所が多いんです」
カ「27歳で朝っぱらから仕事探し……。もしかして、君のお兄さんって」
ツ「無職ですよ」
カ「うっわー。最悪じゃん」
サ「か、カリンちゃん!」
カ「あ」
  口をおさえるカリン。
カ「あれ? でもさぁ、えーと君、その制服、ワカナエ中のでしょ?」
サ「名門私立の?」
カ「そうですそうです」
ツ「兄も知識は豊富なんです、あれで」
カ「うっそだー!」
サ「か、カリンちゃんてば(苦笑い)」
ツ「別に構いませんよ。それが現実ですから」
カ「かわいくないなぁ」
サ「でも、すごいね。兄弟そろって努力家なんだね」
ツ「今の兄さんは違います。それに、努力するなんてあたりまえじゃないですか。僕、努力しない奴は人間だと思ってないんで」
カ「うわー。きっと天才って皆こんな性格なんだ」
  カリンを睨むツバキ。
サ「カリンちゃん、違うよ。ツバキ君は誰よりも努力しているだけ」
  ツバキを見て。
サ「天才なんて、言っちゃいけないよね」
ツ「!……あ……」
(OFF)「まもなくー、カミキー、カミキー」
                                       (F・O)
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