「それで?」
「だから、体育祭だよ!」
言いながら、朽哉は前の席の椅子にまたがる。
さっきまでその席にいた嵐山はいつのまにかいなくなっていた。
おそらくいつもの連中とどこかに行ったのだろう。
「体育祭と――委員長と、何が関係あるんだよ?」
思わずあくびが出てしまい、口を手で覆う。
「夢耕、お前ってほんっと人の話し聞かねえのな」
「そんなことない。来週から始まる体育祭についてだろ?
 さっき先生も言ってたからな」
「じゃあ訂正するよ。
 夢耕、お前ってほんっと俺の話し聞かねえのな!」
「おいおい、冗談だよ。だから近いって」
顔をしかめて詰め寄る朽哉に、再び同じことを言った。
朽哉は途端に真面目な顔になって言う。
「いいか、夢耕。よく聞けよ?
 今年の体育祭、我が校の3大美女の全員が、同じ白団なんだよ」
「ていうと……」
風ノ上第二高校の本年度の3大美女。
基本的には1学年一人輩出されている。
生徒(主に男子生徒)による勝手な校内ランキングのようなものだ。
3年連続ランンクインしたのは、
3年生の桜前線を呼び寄せる魔女――桜木春香
新進気鋭の綺羅星は
1年生のひまわりの妖精――天衣睦美
そして、我らが聖女である
2年生の百花香る繚乱の蝶――小野田小百合
そんなような痛いタイトルを銘打って、
特棟4階の階段の上で、
写真部はこっそり彼女らの写真を売っているのだ。
誰がわざわざ特棟の最上階まで行って、
同級生の写真にお金を出すものか、と思えども、
実際購入者がいるから、今の状況なわけだが。
つまり、これほど噂になるような女子が今年の体育祭で白団に集中しているということだ。
「……何か困るのか?」
またあくびが出る。
「何言ってんだよお前は! あの3人が同じ白団ってことは、白団である俺達もお近づきになれるチャンスがあるってことだぜ?」
「お近づきなってどうするんだよ」
俺、今年は白団なのか。あれ、去年もだったっけか……?
「は? どうするってお前、そりゃ――えーと、メアド交換したり、普通に喋ったり、廊下ですれちがったら挨拶できたり……?」
「朽哉、お前自分からメールしないだろ。あとお前は誰にでも馴れ馴れしいよ」
それまでウキウキと元気な高校生らしい顔をしていた朽哉は小さく息を吐くと、俺のよく知るあいつの顔になった。
「なんだよー、せっかく皆みたいにテンション高くして絡んでやったのに。ほんと夢耕と話してるとそういうのが馬鹿らしくなるよ」
「実際馬鹿だろ」
「あー、夢耕くんてばひどーい。いいんだよ、俺みたいな男はスポーツができれば!」
「でもお前、嵐山に勝てたことないじゃん」
「あ……。ま、まぁ? でも夢耕だって勉強で嵐山に勝てたことねえじゃん?」
「「……」」
嵐山ってすげーな。
時計は8時半を回ろうとしている。
1限目は英語。
2年生の英語は能力別クラス編成だ。
なんとなくいたたまれない雰囲気で、それに眠くて、それが嫌で俺は立った。
「そろそろ行くか。次移動教室だろ?」
朽哉は顎をしゃくれさせて、おう! と言った。
教室を出て左右に別れる。
朽哉はスポーツができて、勉強もそこそこやっているが、あいつは英語が壊滅的なのだ。

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