小振りの白熱灯がひとつ。
ポカポカと温かい 木の床と壁。
ほんのりとあまぁい香り・・・・

カウンターには
夕日を切り取って張り付けたような衣をまとった女性が ひとり。
「そろそろお店を閉めましょうか……」
彼女が言う。
鈴を振ったような声色だ。
 
外はもう暗い。

僕は手に持っていた藤色のカップを置く。
カップの底には 少しだけ残ったあたたかいミルクティー。
 
隣のイスにかけてある 自分のコートをとる。
 
向かいの彼女が僕のカップをカウンターの内側へ。

僕は立ち、コートをはおる。
入り口の 木製の戸が少し開いたとき、ドキッとした。
彼女が――カウンターの向こうにいたはずの彼女が――真後ろにいる。
もう少し戸が開くと、
彼女はすっと 僕のわきに腕をすべらせる。
「えっ…!」
一瞬 息をのんでしまった、が、僕のはやとちり……。
彼女はひと固まりの雪を両手にとると、
愛おしげに見つめながら、僕から3歩下がる。
なぜだか僕は少し眉をひそめた。
それから僕に視線を移し、
「また いらしてくださいね」
凛とした声で言った。

僕は 雪のふる寒い世界へ駈け出した!
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