〈社史編纂室〉の看板
  端の方を妖精(1,2,3,4,5、6)が歩いている。
洋「ほら、今日も流星群だよ、マコトちゃん」
洋「光がすーっと尾を引いて、荒れ果てた大地に散る。きれいだよ?」
洋「今の世界人口は?」
灰「はい。ただ今の世界人口は4億7000万20人です」
洋「5億きったのか……」
灰「4億7000万人に、なりました」
洋「たくさん死んでいったよ。〈妖精〉の、都合のいい世辞を聞きすぎたせいだね、きっと。ぼくは耳が随分悪くなってしまったよ。爆音が聞こえにくくなって助かるけどね」
洋「誰も結婚しなくなった。マコトちゃんが生きていたら、ぼくは絶対に君と結婚したのになぁ……。今じゃ、人間一人が5,6匹の〈妖精〉を連れているよ。子どもも、数えられる程しかいない。本当に、奇妙な光景なんだ。人間より、〈妖精〉の方が数が多いんだ」
静「時刻をお知らせします。現在は、17時00分です。本日の勤務時間は全て終了いたしました」
灰「ヒロシ様、お疲れ様でした」
静「日々の業務の消化、見事な手際です」
灰「僭越ながら、明日も拝見してもよろしいですか?」
洋「かまわないよ」
灰「ありがとうございます」
静「ヒロシ様は本当に寛容でいらっしゃいます」
洋「そういうの、いいから。じゃ、お疲れ様」
灰「世辞を聞き入れないとは、あなた様はなんという高い見識の持ち主でございましょう」
 妖精はける。
洋「〈妖精配給会社〉はこういう所だけ残して、規模を小さくした。監視つきで。そうそう、あの地下の研究室、まだ行けてないんだよ。ただ、時々ね、すすり泣きが聞こえるんだ。おかしいよね。耳が遠いのに、聞こえるんだ」
洋「ぼくは密かに思う事がある。地球人を緩やかに絶滅させるために、何者かが〈妖精〉を送り込んだのでは? と……。悪魔でもなく天使でもない、害はないが益もない。それが〈妖精〉という生き物だと、はるか昔から言われてきたのに、ね」

× × ×

 静、泣いている。
 妖精(1~6)並んでいる。
灰「なぜ泣いているのですか?」
静「悲しいから」
灰「なぜ悲しいのですか?」
静「皆、いなくなってしまったから」
灰「私達がいますよ?」
静「家族が! 同じ人間が! ……いなくなってしまったからっ」
灰「あなたはもう、地球人ではありません」
静「体はそうでも、お兄ちゃんが繋ぎとめてくれた心だけは、私のものよっ」
灰「……彼らは、本当に愚かですね」
静「ひどいよ! みんな、お父さんもお兄ちゃんも、他のたくさんの人たちも、みんなあなた達を信じていたのに! 安らぎだったのに!」
灰「勝手に安らいでいたのは彼らですよ? 私達、一度でも名乗りましたか?」
静「!」
灰「〈妖精〉だなんて一度も口にしていませんよ。そんな大層なものではありませんから。私達はつまらない生き物です。ですから、最初に申し上げたでしょう?」

 「こんなつまらない生き物を飼ってくださってありがとうございます」(妖精みんなで)





(おわり)
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