『世界なんてそんなもんだ。』

億万年の守護を纏うその社の中央で、まだ青年の面影を残した男はそう云った。
億千年の聖域であるその社の中央で、かつて言ったように。

だがその言葉は、その言霊は、その視線は、その余裕は、その笑みは、とうの昔に私から外れていた。

空を見つめる紅蓮の瞳は、やがて写すものを無にして、全て悟ったように、全て解決したように、全て納得したように、それは最高の幸せを目にしたような傲慢な微笑みを浮かべた。

あの時と違うのは、自信に満ちたその顔が、
濡れていたこと。


あやつはな、泣いておったのだ。
世界は自分の思い通りで、大事なものも必要なものも全て持っておった。
過剰なほどの自信と魅了する傲慢さを備えたあの王が、弱音なんて文字を知らぬ大馬鹿者が、あの時から一度たりとも泣かなかった男が、途中退場のその瞬間に、涙を流したのだ。


『世界なんてそんなもんだ。』
反響する。
彼を彼たらしめた真理。
私を解放した全て。
反芻する。
これは、淡い怒りがはった虚勢の残像。

つまりはそういうことなのだ。

最初から既に勝手に完結していた世界。
それでも、あるいはと結末を開始しようとした紅蓮の王の、呆気なくて味気ない終末。

一人の馬鹿な男の好き勝手な劇幕は、あろうことか、何でもない普通の恋によって、下ろされたのだった。

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