あか。
アカ。
赤。
緋。
紅。
愛し愛されるために生きているのだと、何かで読んだ。
そんなこと信じるわけがなかった。
恋だの愛だの、好きだとか嫌いだとか。
そんな不確定不確かなもので宇宙が誕生したはずはないのだ。
「寝言は寝て言え」とはよく言ったものだと思う。
夢見すぎるのも大概にしろ。生命活動は現実で行ってんだよ。
だが、知的生命体がその不明瞭な「愛」で生きてゆけるのだとしたら……。
生まれながらに所持していた力はあまりにも圧倒的で、絶対的で、中身と器がずれてしまわないよう、それこそ正真正銘命をかけて、命の限り、継続してきた。
不動の力が嫌で、決定的な世界が嫌いで、絶望的な終劇に嫌悪して、あるいは生まれた時点で既に諦めていたのだろう。
だがそれでも、この爪先の向きが、この腕一本が、言葉が、背後の何より尊くあるはずの命らの明日明後日を決めてしまう。
驚異的な脅威がつなぐ鎖。
淡い色彩のこの世界で、目を引き、目を奪い、目を背けたくなるような凍てつく暖かい白さを見つけた。
全てを視ることができる目を持ちながら、あらゆるものを見ないようにして存在する。
瞬間、手が震えた。
迂闊だった。
なんでも叶うこの世界で、自分以外の不動且つ不変がいたのだ。
真っ白の美しさを、知った。
大切な者はいた。
守るべきものもあった。
守りたいものが、できた。
怖いくらいの美しさ。
恐ろしいほどの感情。
やっと見つけた。世界の外周りを軌道するもう1つ。
気づけば掴んでいたその女の手は、自分よりも暖かかった。
里の大きな聖域で、昔彼女は『この世は案外狭い』と呟いた。
守護を受け守護する大社で、彼女は『願いはことごとく壊される』と泣いた。
昔も今も、結局同じ言葉で返した。
やはり彼女は不変且つ不動だった。
恋だの愛だの、好きだとか嫌いだとか。
そんな不確定不確かなもので宇宙が誕生したはずはないのだ。
だが、もし仮に、「愛」とかが確かに存在し得て、知的生命体がそいつで生きてゆけるのだとしたら、
おそらくそいつは赤いだろう。
ことごとく真っ赤であるだろう。
だからこの身体に流れる血は赤い。
彼女によって壊されたこの体の組織。
破壊という行為を、明らかな敵意あるいは殺意を受けたにも関わらず、この体から、損傷部から、染み渡るように広がる自分の血液は。
何しろこの雨をも染めるほど、真っ赤であったのだから。
大切なものはいた。
守るべきものもあった。
守りたいものが、あった。
随分昔から里を守護する大社で、紫陽花に囲まれたこの聖域で、最後の最後にこの眼に写ったのは、頭上の曇天のように大泣きしている、赤く染まった真っ白な、無言の女だった。
あか。
アカ。
赤。
白。
紅。
アカ。
赤。
緋。
紅。
愛し愛されるために生きているのだと、何かで読んだ。
そんなこと信じるわけがなかった。
恋だの愛だの、好きだとか嫌いだとか。
そんな不確定不確かなもので宇宙が誕生したはずはないのだ。
「寝言は寝て言え」とはよく言ったものだと思う。
夢見すぎるのも大概にしろ。生命活動は現実で行ってんだよ。
だが、知的生命体がその不明瞭な「愛」で生きてゆけるのだとしたら……。
生まれながらに所持していた力はあまりにも圧倒的で、絶対的で、中身と器がずれてしまわないよう、それこそ正真正銘命をかけて、命の限り、継続してきた。
不動の力が嫌で、決定的な世界が嫌いで、絶望的な終劇に嫌悪して、あるいは生まれた時点で既に諦めていたのだろう。
だがそれでも、この爪先の向きが、この腕一本が、言葉が、背後の何より尊くあるはずの命らの明日明後日を決めてしまう。
驚異的な脅威がつなぐ鎖。
淡い色彩のこの世界で、目を引き、目を奪い、目を背けたくなるような凍てつく暖かい白さを見つけた。
全てを視ることができる目を持ちながら、あらゆるものを見ないようにして存在する。
瞬間、手が震えた。
迂闊だった。
なんでも叶うこの世界で、自分以外の不動且つ不変がいたのだ。
真っ白の美しさを、知った。
大切な者はいた。
守るべきものもあった。
守りたいものが、できた。
怖いくらいの美しさ。
恐ろしいほどの感情。
やっと見つけた。世界の外周りを軌道するもう1つ。
気づけば掴んでいたその女の手は、自分よりも暖かかった。
里の大きな聖域で、昔彼女は『この世は案外狭い』と呟いた。
守護を受け守護する大社で、彼女は『願いはことごとく壊される』と泣いた。
昔も今も、結局同じ言葉で返した。
やはり彼女は不変且つ不動だった。
恋だの愛だの、好きだとか嫌いだとか。
そんな不確定不確かなもので宇宙が誕生したはずはないのだ。
だが、もし仮に、「愛」とかが確かに存在し得て、知的生命体がそいつで生きてゆけるのだとしたら、
おそらくそいつは赤いだろう。
ことごとく真っ赤であるだろう。
だからこの身体に流れる血は赤い。
彼女によって壊されたこの体の組織。
破壊という行為を、明らかな敵意あるいは殺意を受けたにも関わらず、この体から、損傷部から、染み渡るように広がる自分の血液は。
何しろこの雨をも染めるほど、真っ赤であったのだから。
大切なものはいた。
守るべきものもあった。
守りたいものが、あった。
随分昔から里を守護する大社で、紫陽花に囲まれたこの聖域で、最後の最後にこの眼に写ったのは、頭上の曇天のように大泣きしている、赤く染まった真っ白な、無言の女だった。
あか。
アカ。
赤。
白。
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今
今という間に
今ぞ無く
今という間に
今ぞ過ぎ行く
――道歌――
今という間に
今ぞ無く
今という間に
今ぞ過ぎ行く
――道歌――