遠くで風狼の遠吠えが響く。
四皇月のウテリウスも、もう消えようとしていた。
「はぁ、はぁ、……っう!」
金属のわずかな音がなる。
月明かりに照らされて、銀色の鎖が光る。
銀鎖をまいた左手で、血がドクドクとあふれ出す横腹をおさえる。
「っく……こんな、こんなところで、私はまだ……!」
背後の茂みが大きくゆれる。
途端、勢いよく黒い影が奇声とともに飛び出た。
「っち、まだ残ってたのか」
飛び出たそれは、まっすぐこちらへ向かってくる。
彼女は横腹を左手でおさえたまま、右手を振り上げかすかに呟く。
そして振り下ろした。
同時に風がうなりをあげる。
「ッゲ、ギャッ?」
疑問形のようなその声が、それの最後の言葉になった。
人型の黒い生物は、腰から上を先に地面に落とした。
脆く崩れ砂となり、そうさせた女の起こした残りの風に散らされた。
こんな所に小動物の気配はまったくない。
気付けば風狼の声もしなくなっていた。
あたりは心臓がとまるほど静けさに満ちていた。
と、いきなり、それまで冷徹な顔だった彼女が、
目の前で崩れるように倒れた。

「あ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!っ・・・・・」

「っっ!!」
はっと目が覚めた。
見たことのある天井。
あぁ、と落ち着く。自分の部屋の天井だ。
「……っ、まただ、またあの夢。一体なんなんだよっ……」

それから4日後、俺は身をもって知ることになる。
多くの人をまきこんで――。

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